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口腔インプラント

人工歯根を歯の抜けた部位に埋め込み、再び咬み合わせが可能となる技術は以前から行われていましたが、現代のチタニウムによる人工歯根が行われるようになったのは1960年代であり、スウェーデンのBranemark教授らのチームがチタニウムと骨が直接、接することを報告した以後、著しい進歩を遂げています。現在、口腔インプラント治療は実験的な技術ではなく、歯科臨床にとって、欠くべからざる技術となっています。

1. インプラントができない患者さん

妊娠中、チタニウムへの過敏症のある患者さんには適応できません。先天性止血異常(血をサラサラにする薬の投与は問題ありません)、全身疾患(最近の心筋梗塞の既往、免疫不全、抗がん剤の投与など)の方も状態が良くならないと適応は困難です。喫煙は骨の治癒を遅延させ、歯槽膿漏を増悪させるため、喫煙される方は禁煙がインプラント治療の原則となっています。特に骨移植が必要な患者さんでは禁煙は必須と考えています。

2. 材質

人工歯根に用いられる材料は現在、チタニウム以外はほぼ利用されていません。

3. 義歯、ブリッジとインプラントの差

義歯(入れ歯)には部分義歯と全部義歯(総入れ歯)がありますが、部分義歯の場合、残っている歯にクラスプという針金をかけることで安定させますが、義歯で咬み合わせると義歯は歯肉の上にのっているので義歯が沈み込みます。その時、針金を介して残った歯に力が働き,長期的に見ると針金のかかった歯はダメになってしまうことがあります。特に総義歯の場合、歯肉の上にのっているだけなので、不安定な事が多く、特に下顎ではことさらです。咬み合わせる力は天然歯の場合の1/3以下になってしまいます。 また経年的に歯槽骨の吸収が進行するため、安定性は次第に悪くなっていきます。

ブリッジ(さし歯)は部分的に歯が無くなった場合に用いますが、両脇の歯を削らねばならず、かみ合わせの力も大きくかかることから周りの歯の負担が強くなりすぎることがあります。

インプラントは人工歯根であり、歯と同様に骨の中に埋まっていますので、よりしっかりしており、部分、全部の歯の欠損を問わず用いることが可能です。実際、骨がないと人工歯根は植えられませんが、最近の技術の進歩によって、骨の再生が可能となりましたので、他の歯科医院でインプラント不可能といわれた方も、ご相談頂ければ幸いです。

部分欠損の人工歯根埋入とレントゲン写真

4. インプラントと歯の違い

インプラントは骨と結合していますが、歯は歯根膜というクッションを介して骨と結合しています。更に歯と歯肉は強固に結合していますが、インプラントと歯肉は弱い結合しかしていません。人工歯根はだんだん改良されていますが、本来の歯とは全く違うものであることは否めない事実です。ですから歯槽膿漏にはインプラントのほうがかかりやすく、いったんインプラント周囲に炎症が起こると周りの骨は持続的に吸収されていきます。

口の中は細菌の巣窟であり、たえず食物の刺激をうける過酷な環境です。そういう中でインプラントが長期間役割を果たすためには歯磨きをきちんと出来るかにかかってくると言っても過言ではありません。ですから当科ではインプラントを希望される患者さんはまず歯磨き指導をして、磨きかたが上手になるまで、インプラントを植えることはしません。

5. インプラントはどんな状態の顎にも植えることができるのか

骨移植を併用したインプラント

インプラントは骨の中に植えねばならないため、出来るだけ骨が厚く、幅もあった方が良好な結果が得られます。インプラントは骨との接触面積が大きくなり、咬み合わせの力に対する抵抗が大きくなるからです。

骨の高さや幅が無い場合にはインプラント植える前もしくは同時に骨を移植する必要が出てきます。当科では患者さんへ負担を軽減するために可能な限り、口の中から骨をとって移植しています。

6. どのくらいの期間使えるのか

当科で用いている人工歯根での研究では、7年間使用に耐えたインプラントは上顎で93.9%、下顎では94.6%と高い成功率となっています(Khayatら)。また最近では15年で90% の成功率という報告も出てきています。さらに人工歯根の表面性状は機械研摩したものから、表面が荒く加工してあり、より骨と人工歯根の接触面積が大きくできるように改善しており、安定性はより向上しています。

しかしインプラントは基本的には自分のものではないので、手術でしっかり骨のなかに植えること。かみ合わせの調整をしっかりやること。きれいに歯磨きができること。という3点が成功への条件となってきます。2つはこちらの責任ですが、最後の1点は患者さんがしっかり意識を持つことが肝心であり、歯がなくなり、不自由をされた貴方が今までと同じような口の中の清潔意識をお持ちになっていたら、結果はたぶん厳しいものになると思われます。

7. 冠が入るまでの手順と期間

通常の治療手順

  1. 1. 初診

    歯周病がある場合、歯周病治療が優先します。

  2. 2. 治療方針決定

    模型をとって治療計画。レントゲン写真(CT)を撮影します。

  3. 3. 必要な場合骨移植、粘膜移植

    うまくなるまで。必要な場合、骨移植を行う。

  4. 4. インプラントを植える(骨と結合するのを待ちます)

    • 上顎0-3か月
    • 下顎0-2か月
  5. 5. 歯肉の中から外へだす(この過程がない場合もあります)

    歯肉が治るため0-1週間の治癒期間をとります。

  6. 6. 型をとる

  7. 7. 仮りの歯が入る

    インプラントの安定性を確認する。

  8. 8. 最終の歯が入る。

    インプラントを植えてから6-8か月後

  9. 9. 定期観察 (メンテナンス)

    歯磨き、インプラントの状態のチェック、噛み合わせの調整、初め1週間に1度、状態の良い場合はのばしていき、最低でも年に2度は受診をお願いしています

8. 手術について

インプラントの植え込みは局所麻酔下、手術室で行います。手術時は点滴をとって、鎮静薬をいれ、眠っていただいている間に進行しますので、恐くありません(静脈内鎮静法といいます)。しかし多数歯あるいは多量の骨移植が必要な場合、入院して、全身麻酔をかけて行うこともあります。入院するか否かは主治医が相談致しますが、入院もしくは全身麻酔を希望される方はご相談下さい。しかしインプラント治療は保険がききませんので、入院、全身麻酔で17万円(2泊3日)、静脈麻酔では7万円(1泊2日)の費用がかかります。

9. 手術の後遺症について

下顎の骨の中には下唇の感覚を司る神経が走行しています。この神経を傷つけないようにインプラントを植えますが、損傷した場合、下唇の感覚が鈍くなります。私達は、術前にCT写真をとって、コンピューターシミュレーション後、インプラントの長さ、太さを決めて、障害が発生しないように努めており、現在まで知覚障害が発生した事は皆無です。

手術後は腫れますが、手術のための腫れで、バイ菌がはいったものではないので、タオルで巻いたアイスノンを2-3日間手術した顔の部位にあてて冷やしていただければ、腫れは最小限で済みます。

10. 費用

インプラント治療は保険がききませんので、以下の金額が必要です。

インプラント1本のみでは約37万円(再診料以外-検査、CT、手術料、インプラント本体、手術、最終の冠など骨移植以外のすべてを含みます)
人工歯根代が種類により1~1.5万円ほど上下し、最終の冠の種類で4万円程度変わります。手術料は本数が増えれば、1本当たりの単価はお安くなります。手術前には説明及び料金の見積もりを行います。なお1回の診察には必ず再診料(847円)をいただきます。

オプション(通常の費用以外に、骨造成など)としては

  骨移植 4.4~22万円(手術の規模により変化します。)
  骨採取器具 8150円
  骨再生治療用膜 1.2~2.1万円
  代用骨(異種骨) 0.25g 11225円
  チタンねじ 11000円
  チタンの薄い板 22000-41000円-など用いた場合、実費をいただきます。

また入院、全身麻酔で手術する場合は1泊2日で18万円前後の費用がインプラントの費用とは別に必要になります。

術後はメンテナンスに入ります。インプラントの寿命は術後の口腔内をいかに清潔に保つか、咬み合わせを適正に維持するかにかかっていると言われています。そのため当科では年二回のメンテナンスは必須と考えております。インプラントは5年保証を行っておりますが、メンテナンスを受けていただいている患者様に限定しております。またレントゲン写真は通常1年に1度撮影させていただき、異常を早期に発見すべく、努めています。

  メンテナンス 3300円から11000円(治療が必要な場合)
  再診料 847円
  レントゲン代 4319円 (経過観察-大きいレントゲン写真)
    693円 (経過観察-小さいレントゲン写真1枚)

口腔内が綺麗に維持されているおり、メンテナンス時、治療を必要としない場合は再診料のみいただきます。

当科では令和元年12月まで3600本以上のインプラントを埋入しています。現在まで95%以上の生存率です。失敗した場合も希望しなかった患者様以外は全て植え直しを行って、成功しています。安心して治療をお受けください。

年別インプラント埋入本数

症例