ろうさいニュース

このウィンドーを閉じる

筋・筋膜性歯痛


歯科口腔外科部長  松井 宏

口の中の痛みは切ないものです。痛みの原因は、ほとんどが細菌感染による歯や歯肉の異常なので、適切な治療を受ければ良くなることが多いです。しかし、いくら調べても歯や歯肉に原因があると思えない痛みもあります。歯科だけでなく耳鼻科や内科、脳神経外科などを受診しても異常がないと言われ、精神的な問題ではないか、と突き放されてしまうような、そんなつらい痛みです。それは歯や歯肉とは無関係の痛みと考えられ、“非歯原性歯痛”と呼ばれています。

非歯原性歯痛の中にもいろいろな分類があるのですが、最も頻度が高いのが“筋・筋膜性歯痛”と呼ばれる痛みです。
この痛みの原因は、主に咬筋や側頭筋といった咀しゃくするのに重要な顔の筋肉が疲労したときに、”トリガーポイント”と呼ばれる筋肉のこりができ、そこから発生する痛み信号が脳に伝わる途中で複雑な神経の絡みにより信号が誤って伝達され、歯が痛みを感じているような混乱をきたしてしまう“関連痛”であるという説が一般的です。

持続的な鈍い痛みのことが多く、トリガーポイントを圧迫すると歯の痛みが増すことや、トリガーポイントに局所麻酔薬を注射して痛みが取れるかどうかで診断します。筋肉によって、圧迫したときに関連痛を生じる歯の部位が決まっているため、診断に役立ちます。繰り返しますが、歯や歯肉に異常がないことが大前提です。

治療は生活指導、理学療法、薬物療法、トリガーポイント注射があります。生活指導では、咀しゃく筋に過度な負担をかけないように歯ぎしりなどの癖を止めるようにお話します。理学療法には、筋肉のこりをほぐすマッサージやストレッチがあります。薬物療法は痛み止めをしばらく続けて服用する方法がありますが、慢性化している場合には、痛みに敏感になってしまった脳に作用する効果がある抗うつ薬などを処方することもあります。トリガーポイント注射は、こりのある部位に局所麻酔薬の注射を行う方法で、診断にも治療にも使えます。また顎関節症の治療でよく用いられるマウスピース(スプリント)を使用することもあります。その有効性は証明されていませんが、歯ぎしりに起因する筋肉の痛みからくる筋・筋膜性歯痛には有効と考えられています。

歯や歯肉が原因ではない痛みは、診断が難しいことが多いです。自己判断せず、かかりつけの歯科医院へご相談下さい。
このウィンドーを閉じる