ろうさいニュース

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脳卒中になっても安全に自動車を運転するために
~高次脳機能障害者のための自動車運転再開までの流れ~


主任言語聴覚士  宮澤 光一郎

高齢者の自動車運転の話題や事故の報道を見聞することが多くなりました。それを受けて、関連法案の改正が行われ脳卒中後の自動車運転再開に対して社会の見方は厳しい状況にあります。

当院では、脳卒中後に高次脳機能障害を呈した方の自動車運転再開に向けて支援を行っています。主に入院の方が中心ですが、本人の希望に沿い家庭復帰や社会復帰、QOL向上を図るためにご家族の希望も伺いながら慎重に評価を進めております。

皆さんは、脳卒中後でも体が動いて日常生活に問題なければ自動車を運転できると思っていませんか。脳卒中後のリハビリテーションによって日常生活が自立して1人で外出が可能な場合であっても、瞬時の判断や行動が困難な場合があります。動作を継続しながら状況判断を行うことが困難な場合もあります。慣れている道なのに「迷った」「信号を見落とした」「一定のスピードで走れない」「ハンドル・ブレーキ操作を誤った」「歩行者の急な飛び出しに気付かない」「左側に寄ってしまう」「まっすぐ走れない」等です。

運転を再開したい場合にどうすれば良いでしょうか。具体的な流れをご紹介します。
① 脳卒中後の自動車運転可否の目安は、日常生活動作が自立していること。また、1人で外出が出来ること。この2点が出来るようになったら、自動車運転再開の希望を主治医に相談して下さい。
② 高次脳機能検査(判断力や注意力など所定の検査/当院では言語聴覚士及び作業療法士が担当)を行います。その時点で問題があれば、ご本人の希望にもよりますが改めて2~3ヶ月後を目安に再評価を行います。
③ 高次脳機能検査で問題が無ければ、自動車教習所で実車評価や視力検査、適性検査、シミュレーター運転等を行います。必要に応じて、自動車教習所で追加講習を受けて、運転操作の向上を図ります。自動車教習所に行く際には、同乗者(ご家族等)が求められます。所定の再開支援の講習は、2時間で2万円弱の費用が掛かります。エレベーターがない教習所もありますので、階段昇降が出来ないと教習が受講出来ないこともあります。
④ 前述評価で問題が無ければ、免許センターに連絡して「脳卒中後の自動車運転再開の診断書」を郵送してもらいます。
⑤ 主治医は自動車教習所での評価結果を基に診断書を作成します。その診断書を免許センターに提出して1~2週間後には運転の許可が下り運転再開の流れとなります。その場合も、自己責任の上で、保険に加入し安全運転支援装置の装備された車(サポートカー)が望ましいです。最近サポートカーのレンタルもシニア層に人気だそうです。

医師の指示により、日中の運転に限る、普段使用する道(半径2㎞)のみの運転に限る、天気が悪い時は使用を控える、1日2時間以内(長時間の運転を控える)とする、サポートカー限定等、限定された運転許可になることもあります。

長寿社会を迎えたことは喜ばしいことですが、健康寿命を伸ばすことが大切です。加齢と共に筋力や耐久力、判断力等運転に必要な能力は衰えていきます。いつまでも自動車を運転できると願うことは理解できますが、免許証の返納に付いて日頃からご家族で話し合うことが大切だと思います。異口同音に聞かれる「買い物が困る」「通院が困る」に対して、公共交通機関の利用、ネットスーパーの利用、お洒落なシニアカーのレンタルなども検討してみましょう。車を維持するよりもタクシーを利用したほうが安い場合もあります。リモート診察やドローンでの配達、自動運転の時代が早く迎えられれば嬉しいですね。
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