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スギ花粉症の新しいアプローチ


耳鼻咽喉科医師  朝日 香織

現在日本では、スギ花粉症が増加の一途をたどっており、重大な社会現象の一つと言われています。若年者の割合が増えている一方で、自然に治ることが少なく累積していること、また花粉の多い年には40から70歳代でも新たに発症する人が少なくないからです。現在は4人のうち1人、地域によっては2人のうち1人がスギ花粉症といわれています。

花粉症の治療は
①抗原(アレルギーの原因)であるスギの花粉を避ける。→マスク、ゴーグルの装着など。
②症状の緩和。→抗アレルギー薬の内服、ステロイド点眼、点鼻など。
③免疫療法。の3つが大きな柱となります。この中で免疫療法が、唯一治癒を目指せる治療法であり、徐々に浸透しつつありますので、今回簡単にご紹介したいと思います。

アレルギーに対する免疫療法は100年以上の長い歴史があります。アレルギーの原因となる抗原物質を少しずつ身体に投与することで、免疫を変化させ、身体を慣らしていく治療法です。当初は注射で抗原を投与していましたが、頻回に通院する必要があること、注射による痛みがあること、何より、重篤なアレルギー症状(アナフィラキシーショック)をおこすことがあることから、あまり広く行われていませんでした。

1986年頃から、抗原の新しい投与方法として舌下免疫療法が開発されました。本邦では2014年にスギ花粉の舌下液が保険適応となり、また2018年には小児適応のある新しい舌下錠が発売されました。昨年までにこの治療は5年目を迎え、アナフィラキシーショックなどの大きな副作用なく安全に行われていること、治療効果も他の薬物治療より優れ、一年一年効果が高まることがわかってきました。

治療開始は、スギ花粉の飛散期には副作用が強く出る可能性があるため、通常は5月中旬以降から12月までが推奨されています。最初の1回目は、病院や診療所で薄い濃度の薬を舌下に1分間保持してから飲み込みます。30分安静にして重大な副作用がないことを確認したら、あとは自宅で毎日1日1回、少しずつ濃度の濃い薬に変更しながら続けます。最大濃度の薬に到達したら、3年から4年間継続します。まだ大規模な長期的効果はわかっていませんが、海外の報告や発売前の治験の報告では、薬を中止した後も10年以上効果が継続することがわかっています。

残念ながら、免疫療法で効果が出ない方も一定割合います。治療する前に、自分に効果があるのかないのかわかれば良いのですが、今のところこれを予想することができません。治療に数年かかることを考えますと、今後の大きな課題の一つといえるでしょう。

まだ始まって間のない新しい免疫療法ですので、いくつかの課題もありますが、花粉症が自然に治ることの少ない一生の疾患であることを考えますと、有用な治療法といえるのではないでしょうか。

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