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ボトックス治療、始めました


脳神経外科部長  青木 悟

ボトックス治療、始めました。残念ながらシワ取りとか小顔効果とか、そういうやつではありません。期待をしちゃった人には、ゴメンナサイ。

脳卒中後、痙縮が起きる人がいます。痙縮って知ってます?脳卒中後に写真のように手足が硬まっちゃう症状です。正常では、関節は屈筋と伸筋のバランスが脳により絶妙に調整されています。それぞれの関節には得意な方向があり、例えば手指は屈筋優位です。その屈筋を脳が抑制していますが、脳卒中で脳の働きが悪くなると、手指は強く曲がろうとします。同じように肘も曲がろうとします。足首は下に向こうとします(底屈)。なので、脳の働きが悪くなると図のように痙縮が起きてくるんです。

痙縮が起きると、いろいろと大変です。掌に爪が食い込む、爪を切ろうにも手指を伸ばせない、手掌はいつもジメジメでカビが生える。肘を伸ばせないので服を着替えるのが大変。足が下に向くので、立てない、装具で矯正しようとすると装具が足に当たって痛い~褥瘡になる…。こういう問題を改善するのがボトックス治療です。

脳の抑制がとれて縮まろうとする筋にボトックスを注射します。ボトックスは神経筋接合部でアセチルコリン放出を阻害し筋痙縮を軽減します。注射だけでは効果が不十分で、注射後の関節可動域訓練が重要です。効果は約3か月持続します。

副作用はほとんどありません。ボツリヌス菌そのものではなく、ボツリヌス菌が産生する蛋白質を注射するので、ボツリヌス菌に感染はしません。毒素が全身に回って悪さをするか?ほとんどありません。稀に頚部の注射で呼吸筋が弱くなることがあります。何度も繰り返し注射をするとボトックスに対する抵抗性ができてしまうことがあります。ボトックスを自分の免疫がやっつけてしまうため、ボトックスの効果が出なくなります。

費用は高額です。ボトックスは薬価のみで100単位約7万円、50単位4万円です。3割負担でも上肢240単位5万4千円、下肢300単位6万3千円の患者負担です。しかし新潟県では、身体障害者3級以上認定されていれば月4回の診療まで1回530円負担となります。なので、ボトックス治療は身体障害者認定がおりてから行うようにしています。

ボトックス治療は、脳卒中診療ガイドライン2015でも上下肢痙縮に対してグレードAで推奨されています。痙縮によりお困りの患者さん、一度受診してみませんか?

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