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浮腫をきたす希少疾患HAEについて


内科部長  佐藤 信之

浮腫は日常的に遭遇する病態ですが、時々診断が難しい場合があります。今回は、時に重篤な症状を呈する希少疾患、遺伝性血管浮腫(HAE:Hereditary angioedema)について解説します。

HAEはブラジキニン介在性の血管浮腫で、C1-inhibitor(C1-INH)の異常があるHAE I型・II型と、C1-INHの異常がないHAE with normal C1-INHに分類されます。HAE with normal C1-INHはきわめて稀で、本邦での報告はありません。HAE I型・II型は5万-10万人に1人の有病率とされ、本邦では2000-3000人の患者が想定されます。遺伝学的には常染色体優性遺伝で、患者の85%に家族歴を認め、15%はde novoの遺伝子異常とされます。

C1-INHは補体系、カリクレイン・キニン系、線溶・凝固系に属する複数のセリンプロテアーゼ活性を抑制する蛋白です。HAE I型・II型はC1-INHの作用低下によってブラジキニンが過剰に産生され、血管透過性が亢進して浮腫を起こします。ストレスが誘因となり、小児期から20歳代までに発症することが多いです。体表の浮腫は境界が不明瞭で痒みがない点が蕁麻疹と異なります。喉頭浮腫の場合は、急速に進行して窒息に至ることがあり、腸管浮腫の場合は、腸重積や血管内脱水からショックを呈することもあります。

検査は血清C1-INH活性とC4濃度を測定します。HAE I型・II型では、C1-INH活性が常に50%未満、C4は非発作時に95%の症例で、発作時には全症例で基準値未満になります。

発作時の治療はC1-インアクチベーター製剤を投与します。本製剤は血漿蛋白分画製剤であり、使用前にインフォームドコンセントが必要です。学会のガイドラインでは、喉頭浮腫以外の発作時で本製剤が入手困難な場合は、次の選択肢として、トラネキサム酸を挙げています。手術や歯科治療が発作を誘発する可能性があり、HAE患者に対して侵襲の大きな手術を行う場合には、手術前にC1-インアクチベーター製剤を投与し、発作時に備えて予備の製剤確保が推奨されています。

HAEは希少疾患で認知度が低いため、長期にわたり診断に至らない傾向があります。本邦の2014年の調査では、発症から診断までに13年以上の歳月を要していました。近年は、日本補体学会の活動によって、疾患認知度が高まりつつあり、今後は早期の診断・治療が期待されています。

文献
1)大澤 勲. 遺伝性血管浮腫とその問題点. 補体2016; 53(1):20-30.
2) 堀内孝彦, 山本哲郎. C1インヒビター欠損と遺伝性血管性浮腫.補体への招待;139-147. 大井洋之, 木下タロウ, 松下操(編). MEDICAL VIEW 2011.
3) 遺伝性血管浮腫(HAE)ガイドライン2014.日本補体学会

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