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「頻尿」の診療に関して


泌尿器科副部長  羽場 知己

待ち時間が長いことで定評のある泌尿器科です。いつもお待たせしていることを大変申し訳なく思っております。

さて、11月14日のインターネットのニュースでややショッキングなニュースがインターネットで配信されていました。「おしっこの回数と寿命の関係」という記事で、夜間頻尿の高齢者の集団はそうでない高齢者の集団に比べ、一定の期間のうちに2倍の死亡者がでていたという発表でした。これは、以前から泌尿器科医のうちではよく知られていた事実ですが、夜間のトイレにより転倒→骨折→寝たきり→衰弱の経過をたどることや、一部の夜間の頻尿は命にかかわるような大きな病気の一症状だったことが原因として考えられています。

頻尿は泌尿器科を受診するきっかけとなる症状の一つですが、これはなかなか問診の大変な症状でもあります。咳で困っていますと患者さんが言えば、患者さんの状況と医療者が受けとった病状が大きくずれることは少ないと思います。しかし、頻尿で困っている患者さんの病状は人それぞれで、なかなかその言葉だけではどんな理屈で困っているかを察するのは困難です。

なぜなら、頻尿は一般的にイメージされる年のせいで尿を貯める力が低下したことだけが原因でなく、排尿後も尿が全部は出し切れず膀胱内に残りすぐ満杯になっていることが原因の場合も少なくないからです。貯める力が低下する原因として、加齢の他に膀胱が過敏になって膀胱が膨らめない膀胱炎や癌なども挙げられます。高齢者の場合ですと、一つの原因だけでなく複数の原因が合わさっていることも診療中によく経験します。

膀胱が正しく働くためには、①(尿を)出す力、②(尿を)貯める力、③(どれくらい尿が貯まっているかを正しく)感じる力の三つが重要です。特にどの力が弱るかによって自覚する症状は異なりますが、一つだけでなく複数の力が弱ることが実際には多くあります。比較的男性に多いのが「出す力と感じる力が弱り、尿の勢いが低下し残尿が増えているけど残尿感は感じづらい」です。女性に多いのは「貯める力と感じる力が弱り、膀胱が尿を勝手に出そうとし尿漏れも出現し、実際に尿は残っていないが残尿感はある」です。この場合、両者ともに「頻尿」で泌尿器科を受診しますが、その原因は異なり、治療法も異なります。前者には、尿の通り道を広げて勢いを良くし残尿を出し切る薬を処方し、後者には出す力が弱らない程度で膀胱が過敏に尿を出そうとする動きを抑える薬や膀胱の働きを正常化する薬を処方しています。(注:残尿を出し切る薬は、薬袋には単に「尿を良く出す薬」と書いていますが利尿剤とは別物です。)

頻尿と一口に言ってもその原因は様々で、現時点では「頻尿の特効薬」といったものは存在していません。症状を詳しく聞き、検査を組み合わせ膀胱の状態を正しく判断することが治療の早道と考えています。外来での問診や検査に時間を要することにご理解をお願いします。

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