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いわゆる「腰痛症」対策について


第3整形外科部長  傳田 博司

 3月15日にリージョンプラザで「知ってもらいたい腰痛に関するお話」と題して市民公開講座を行いました。400名を超える大勢の方々にお集まり頂き、いかに腰痛に関心を持たれている方が多いかということが分かりました。今日はその内容の一部をここでお話ししたいと思います。
 一言に腰痛と言っても原因は様々ですが実は腰痛の85%は原因が特定できない非特異的腰痛と言われています。近年の研究結果から非特異的腰痛の主な要因として腰への負担以外に心理的因子と社会的因子が大きく関わっていることが分かってきています。心理的因子とは抑うつ、不安と言った内面の問題であり、社会的因子とは仕事上のストレスや家庭生活の問題など取り巻く環境の問題であります。心理的・社会的因子により腰痛が難治、慢性化する理由として人間の体に本来備わる「下行性疼痛抑制系」と呼ばれるメカニズムが関与しています。すなわち、抑うつや不安と言った感情は脊髄レベルで痛みの伝達を抑制しきれず、痛みの情報をより多く脳に伝えることになります。逆に快楽を感じると脊髄レベルで痛みがより強く抑制されることになります。したがって、腰痛に悩まされた場合、「動けなくなったらどうしよう、仕事に行けなくなったらどうしよう」と悲観的に考えるより「昨日よりは少し調子がいい、できることだけをやろう」といった前向きな考え方が大切であります。また、自分自身が急性腰痛(ぎっくり腰)になった時どうしますか。安静にしますか。実は安静のしすぎは禁物です。安静は腰痛を慢性化するだけでなく再発のリスクも高めてしまいます。大事なのは痛みに応じた活動性の維持と安静期間は最小限にすることです。一方、慢性腰痛に対する運動療法には高いエビデンスがあり、昨年出版された「腰痛診療ガイドライン」でも強く推奨されています。ただし、運動の種類による効果の差はなく、至適な運動量、期間、頻度については今のところ不明です。
 ここまでの話しでは「腰痛、恐るるに足らず」といった印象かもしれませんが、癌の転移、化膿性脊椎炎、内臓疾患といった重大な疾患が隠れていることもあります。安静時の痛み、痛みの強さが徐々に悪化してきたり、下肢痛を伴うような場合には速やかに医療機関を受診することをお勧めいたします。
 正しい知識を持って冷静に判断することこそが腰痛対策の第一歩といえるかもしれません。

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