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脳梗塞の悪化を防ぐ


第2脳神経外科部長  渡 邉 秀 

 重い後遺症が残る脳梗塞には初めから重い症状で運ばれてきてそのまま症状が残ってしまうものと、初めは軽い症状であったものが、入院後治療を開始しているにもかかわらず悪化してしまうケースがあります。初めから重い脳梗塞に対しては新しい治療薬が導入されたり、脳血管内治療(カテーテル治療)が行われたりすることで近年治療成績の改善がみられてきています。これに対し初め症状が軽く小さな脳梗塞であったものが、その後病変が拡大し症状が悪化する例があることは以前から知られていましたが、脳卒中臨床のなかでは注目度が低く、現在も治療成績はあまりよくありません。
 このような小さな脳梗塞は穿通枝とよばれる直径1mm以下の細い血管の閉塞、狭窄が原因と考えられています。穿通枝梗塞のうち8割は症状が軽いまま経過しますが、2割で脳梗塞が拡大し症状が悪化してしまいます。しかし発症間もない時点では症状が軽いまま経過するのか、悪化するのかは判別できません。そのため穿通枝梗塞に対しては通常の治療を開始し、症状が悪くなった場合に追加の治療を行うというのが現在も多くの病院で行われている治療法です。しかしこの方法では一旦悪くなり始めた症状を食い止められず、最終的に重い後遺症を残してしまうことが少なくありません。そこで当科では2009年秋より従来の方法に変えて入院当初から積極的な治療を行う方法を導入しましたのでご紹介します。
 脳梗塞の治療薬にはいくつかの種類があり、通常はそのうちの1つもしくは2つの薬剤を使用しますが、我々の治療は4種類の薬剤を当初から同時に使用する新しい方法です。症状の悪化する例が従来は22%だったのが、新しい治療法によって7%まで減少、後遺症を残すことが少なくなりました。多くの薬剤を重複して使うことで副作用が心配されますが、これまで1例もありません。有効性が高くかつ安全性も高い治療法と言えます。
  また当院では新しく導入されたMRIにより運動神経の走行と脳梗塞の位置関係をより正確に把握できるようになったり、これまで描出が困難だった穿通枝のような細い血管の描出が可能になったりと診断技術の飛躍的な向上がみられています。将来的には穿通枝梗塞の発症早期に症状が悪化するかどうかの診断が可能になるかもしれません。このような診断、治療法の進歩により脳卒中の治療成績がさらに向上していくことが期待されます。

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