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福島県いわき市での医療支援について


消化器内科部長  前 川  智

 労災機構本部からの要請があり、5月9日〜13日まで、新潟労災病院から私を含む医師2名、看護師1名、薬剤師1名、理学療法士1名、事務職員1名で、福島県いわき市で、微力ながら医療支援を行いましたので、その内容を中心に報告させて頂きます。
 私自身は、5月11日〜13日までいわき市で活動を行いました。連日のように報道される余震、福島原発事故などにより、若干の不安をかかえながら、いわき市の地を踏みしめました。私は7年前福島労災病院で1年間消化器科医師として働いており、生活拠点としていた土地でもあり、久しぶりに戻ってきたことになります。いわき駅に着いた時の印象は、7年前とかけ離れたもので、新しいビルがたくさん建っており、震災前の繁栄ぶりを感じました。
 11日は、私は移動日で、新潟労災病院として避難所の巡回が終了していましたので、タクシーでいわき市の小名浜の視察に行きました。小名浜には7年前よくドライブに行ったり、ウニを食べに行ったりしたもので、テレビで悲惨な状況を見て、その現状を把握したい思いがありました。海岸に近付くにつれて、瓦礫の山がそのままの状態になっており、震災復興がまだまだであることを痛感しました。私が食事によく行っていた店も倒壊しており、いたたまれない気分になりました。テレビで見ている時は、この大震災がどこか遠くの国で起こっていることのような錯覚をおぼえましたが、現実を自分の目で見て、身にしみて胸が痛みました。その日の夕方、以前お世話になった福島労災病院へお邪魔させていだきました。江尻副院長をはじめ、私が7年前勤務していた時にいらっしゃった4人の消化器科の先生方にお会いすることができ、夜には食事にまで連れて行って頂きました。その時に3月11日以降の悲惨な状況を色々とお聞きすることができました。大震災直後ライフラインがストップし、職員は1週間以上病院で寝泊まりし、シャワーも浴びる事ができなかったこと、食事は非常食しかなく、非常にひもじいものであったこと、原発の風評被害もあり、いわき市の街中はしばらく人が誰も歩いていないゴーストタウンと化してしまったこと、ガソリンがなく、5時間スタンドに並んだけども入れることができなかったこと、ようやくライフラインが復旧した矢先の4月11日の余震でダメ押しの被害を受けた家が多数あったことなど先生方が経験した様々な御苦労の一部を教えて頂くことができました。
 12日、13日は、新潟労災病院の他のスタッフと合流し、中央台南小学校、平体育館、内郷コミュニティーセンター、四倉体育館の4つの避難所を巡回しました。私達がいわき市に入る前に、福島医大チームのエコー検査で、深部血栓症の疑いを指摘された方々および頭痛、腹痛、感冒様症状などの体調不良を訴える方々を中心に診察しました。その際、福島労災病院のソーシャルワーカーの鈴木さん、理学療法士の四家さんが私達に同行してくれました。すでにいわき市の病院、診療所の診療体制は復旧しており、診療の必要性のある方を見極め、近医へ受診するよう斡旋するのが、私の一番の役割でした。ただ、重症度の高い方は、すでに病院に入院しており、基本的には元気な方がほとんどで、医師自体の派遣の必要性は今後乏しいものになると思われました。震災後2ヵ月が経過して、ソーシャルワーカーによる社会復帰への介入、理学療法士、作業療法士による高齢者の拘縮予防などのリハビリテーション、メンタルヘルスケアチームによるメンタルケアなどの医療支援が今後さらに必要になるのではないかと思いました。鈴木さん、四家さんは毎日9時以降まで勤務されているとのことで、過労によるストレスなどが心配です。鈴木さんは、実家が津波で流され、お母さんが避難所暮らしをしているという悲惨な状況ですが、常に笑顔を絶やさず、その仕事ぶりには目を見張るものがありました。避難所の方々も、明るくふるまっておられる方が多く、私達が新潟から医療支援に来たことをお話しすると、遠いところ御苦労さまですと逆に私達の労をねぎらって頂けることもありました。
 今回のいわき市での医療支援を通じて、この大震災のようなとてつもない災害があった時こそ、チーム医療の重要性が増すことを痛感しました。医療スタッフが協力して、全人的な医療を施すことこそが、今求められていることであると思います。特に医師は、災害直後の患者様の急性期医療、トリアージで重要な意味合いをもつと思われ、福島労災病院で勤務したことがある私が率先して、もっと早い段階で医療支援の必要性を訴えるべきであったと反省しています。さらに、医療支援を受ける側の被災した医療スタッフは、日常診療の忙しさを理解しているが故に、支援をお願いしづらいことも考慮しなければならないと思いました。
  このような大災害はもう起こってほしくはありませんが、万が一、大災害が起こった際には、被災していない立場の医療スタッフから、積極的に医療支援に行く覚悟が必要であり、そんな時こそ、医療従事者の真価が問われるのではないかと考えます。

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