ろうさいニュース

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感染制御の基本:手指衛生について



内科医師  石 川 大 輔

 このたびの東日本大震災にて、その深刻な被害につきまして、私ども一同驚愕しております。当地は遠方にて現地への直接の支援は難しいですが、一刻も早い復興をお祈り申し上げます。
 さて、今回の労災ニュースの記事ですが、患者さま一同、また、この上越地区にもいらしておられる被災地からの避難民の方々のお役に立つであろう「手指衛生の基本」について、お話させていただきます。
 「感染制御で最も重要な対策を1つだけ述べよ」といわれたら、どうしますか?もちろん回答は「手洗い」になります。
結核などの特殊な病原体を除けば、細菌やウイルスは「吸い込む空気」よりは「手」を介して口などに入り込むことがほとんどです。手洗いは(安全な水があれば、ですが)最も簡便な手指衛生の方法です。もちろんマスクが合わされば言うことはないですが、ひとまず今回は「どうやって手の清潔を保つか」をお話しましょう。
 手の清潔を保つ現実的な方法としては「石鹸と水による手洗い」と「アルコールによる手指消毒」になります。さて、どちらの方法がより清潔を保てるか、ご存じですか?
 アメリカ疾病管理予防センターでは、「アルコールによる手指消毒」を推奨しています。これは「消毒の方が殺菌効果が強い」「消毒の方が速やかに実行できる」「手洗い後の水のふき取りが感染を却って拡大させる危険がある」の3つ理由が根拠になっています。手を石鹸と流水で30秒間手を洗ったとして、細菌の数が1/63〜1/630程の減少します。一方でアルコールを塗布して30秒経過した手では細菌の数が1/3000となるとされます。手洗い後の水分の拭き取りをきちんと行わないと、人から人へ伝播する細菌の数が増えますので、ふき取りの時間を考慮すれば、消毒の方がはるかに速やかであることは想像に難くないでしょう。これらの点から「手指衛生を保つにはアルコール消毒が優れている」とされます。最近は一般の飲食店やスーパーマーケットなどでも手指消毒が置かれていますが、こちらの方が確実かつ簡便だからです。
 ただし、アルコール消毒だけでは防げない感染症もあります。我々が日常的にみる病原体で特に問題になるのは「下痢を起こす細菌の一種」と「ノロウイルス」が、アルコールが効きにくいことが分かっています。ですので、下痢をしたり吐いたりしている人や、そういう人に触れた人にはアルコール消毒のみでは不十分ですので、しっかり手を洗うようにしましょう。
 先の中越大震災などでも同様でしたが、慣れない環境、集団生活の中では伝染病がはびこることは大きな問題になってきます。手洗いと手指の消毒(+マスク、これも重要です)で、感染症を持ち込まない、他人にうつさないことをこころがけましょう。

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