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真実はいつも一つ!?

内科医師  安  泰 善

 漫画名探偵コナンでの主役のコナンのセリフの一つに「真実はいつも一つ!」という名文句がある。漫画の内容は高校生の頭を持った小学生のコナンが、巧みに証拠集めをして難事件をサクサクと解決し続けるという短編が永遠と繰り返されるものである。
 ところがわれわれの生きているこの現実世界では漫画の様にうまくいかない。真実はよくわからないし、事件(病気)の解決(治療)もうまくいったりいかなかったりである。
 先日、あるきっかけがあって糖尿病の食事療法について新しい考え方があることを知った。従来の糖尿病の食事といえば、いわゆるカロリー制限といわれるもので食事の組成は変えずに全体の量を減らすものである。いわゆる「食事を減らせ、やせろ、運動しろ!」で、実践するのは結構きつい。常に食べ物を前にして「待て!」をさせられている犬状態である。それに対して新しい糖尿病の食事療法は糖質(炭水化物)制限食というもので、ごはん、パン、うどん等の炭水化物を大量に含むものを減らし、逆に肉、魚、野菜などの食材についてはかなり自由に摂取してもOKという食事療法である。新しいもの好きの私は早速この食事療法を実践してみたところ、おもしろい結果が得られた。肉を食べても食べても太らずどんどんやせていくのである(1ヶ月で−4kg)。従来、欧米型の肉食に日本人も移行して、肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病等の生活習慣病が増加していたと信じられていたが、実際ごはんを減らし肉食に移行した私はやせまくり、全く逆の結果が得られた。病院の外来では何人かの糖尿病または肥満の患者さんにこの食事療法を実践してもらっているが、カロリー制限食より効果がでている者が何人もでてきている。
 この糖質制限について海外の文献でも、その効果についてカロリー制限よりもダイエット効果および血糖低下効果が高いとの報告がでており私の実感から食事のあり方、常識についてのパラダイムシフトが今後起こるのではと感じている。
 お米というのは、日本人の主食で食べるのは当然であるというドグマをわれわれは持っている。生まれてから毎日毎日、ごはん、パン、うどんを食べ続け、植物由来だから体にいいという幻想をもっている。私の中学校の先生はごはんには栄養たっぷりだから、人間はごはんだけでも生きていけるとも言っていた。ちなみに大学医学部では栄養学についてほとんど学んでおらず、私も最近まではごはんを中心の食生活に全く疑問を感じることはなかった。
 本当の真実は一つであると思うが、医学の真実(常識といったほうがよいか?)は最近では数年で変わることもあり、一つであるとの実感をもてない。治療方法もよく変わる。昨日食事療法の説明で、ある患者さんに「医者によって言っていることがみんな違う。何を信じていいかわからない」といわれた。全くもって、ごもっともな意見である。

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