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検尿異常、血尿のみがみられるasymptomatic hematuria
      無症候性血尿、persistent hematuria持続血尿について

第2内科部長   荻野 宗次郎

  検診や初診時の検尿で蛋白尿はなく顕微鏡的血尿のみの時は、まず、尿路の結石や腫瘍等の泌尿器科的疾患を検索しますが、それらが否定された時には慢性腎炎などの腎糸球体疾患を疑うことになります。尿沈渣で赤血球5/HPF以上は有意な顕微鏡的血尿となりますが、血圧は正常、浮腫もなく血清クレアチニン値正常で腎機能も良好、いわゆる無症候性血尿であるとその後どうするか悩まれることとおもわれます。臨床症状が顕微鏡的血尿のみが続く(persistent hematuria持続血尿)場合でも、IgA型腎炎、非IgA型腎炎、時には膜性腎症などの慢性糸球体腎炎が原疾患として存在します。また家族性良性血尿(菲薄基底膜病)と呼ばれる糸球体系締基底膜の菲薄化が原因の血尿もあります。いずれも確定診断には腎生検で組織の確認が必要です。しかし、血尿のみの例に侵襲のある腎生検が直ちに必要かとなると一考を要します。
 血尿のみの症例に腎生検を施行した場合の当科のデータは(表)、10〜20代の例にはIgA型腎炎が多く存在し、30〜40代以降では菲薄基底膜病が大半を占めます。50才代以降からは膜性腎症や腎炎がみられました。このことは、慢性腎炎とくにIgA型腎炎の発症は10代〜20代前半でその後多くの例は蛋白尿も出現してくるので、40才代でも血尿のみであれば菲薄基底膜病の可能性が高いと考えられます。しかし、多くの例外があるため、安易に菲薄基底膜に伴う家族性良性血尿と考えますと患者さんに説明してしまうのは問題です。以前にそのような説明を受けその後、蛋白尿の出現や腎機能低下をきたした例も存在します。菲薄基底膜による家族性良性血尿の症例は一般に腎機能の予後は良好とされていますが、単一の遺伝疾患ではなく、アルポート症候群(聴力障害と血尿、進行性の腎機能低下)の亜型で症状の軽度な例から、非IgA型腎炎を伴い進行性の腎機能低下を呈する家系も含まれます。
 慢性腎炎の多くは進行性に腎機能低下をきたし、特に若年者ではその経過に充分な注意が必要です。10代で血尿を指摘され、次第に蛋白尿も顕著となり20〜30代には腎機能低下をきたす群もあれば、一時検尿所見が軽度となるも50代頃から高血圧や腎機能低下が問題となる群もあります。治療としてはアスピリンなどの抗血小板薬、ACEIやARBなどの降圧薬を用いますが、IgA型腎炎は最近では積極的にステロイドで治療を行うこともあります。若年女性であれば、今後の妊娠や出産なども考え治療の計画を立てる必要があります。
 血尿のみの症例は数年での予後は良好ですが、慎重な経過観察が必要で特に若年者では腎生検を含めた精査が必要となる症例が存在します。中学高校の学校検尿異常の例は、夏休みに入院精査をする場合も多く、その前に外来で腎生検の適応を検討いたしますので休みの直前でなく早めにご紹介いただければ幸いです。

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