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手の狭窄性腱鞘炎にについて

第4整形外科部長   白旗正幸

 手や指には人体の中でも、より複雑かつ繊細な運動を行うために、多くの小さな骨や関節、および骨同士を連結する靭帯、筋肉と骨とを連結し、筋肉が縮むことにより生じた力を骨に伝え、関節運動を行う腱などが存在します。このうち指の関節や手関節(手首)を屈伸させるための筋肉は、ほとんどが前腕(肘と手首の間)、特に真ん中よりやや肘側の膨らんだ部分にあり、手関節より数p手前から手指の骨に付着するまでの間は腱に変わります。つまり腱は力を伝えるための「紐(ひも)」の役割を果たしていますが、より指先の関節を曲げ、力を有効に伝えるために、途中で腱の浮き上がりを防ぐ、いわゆる「滑車」としての役割を果たす組織が存在します。これを「腱鞘」と呼び、靭帯と同等の組織でできており、トンネルのような形をしていて主に手のひら側の指の関節と、手関節(「支帯」と呼びます)に存在します。
 腱鞘は通常、腱が滑らかに動くのを助ける働きも担っていますが、何らかの原因、例えば仕事やスポーツなどの使い過ぎで腱鞘が肥厚したり腱の表面が傷んだりして炎症が起こり、痛み、腫れ、熱感を引き起こしたりします。これが腱鞘炎という病態ですが、さらに炎症が長引くと腱鞘の幅に比べ腱の幅が大きくなり、腱鞘の部分で腱の動きが悪くなったり(滑動障害)、引っかかったりすることがあります。これを狭窄性腱鞘炎と呼び、手に発生する主なものとして以下の2つがあります。
 1つは、「ばね指」と言い、指の付け根の中手指節関節(指先から数えて親指は2番目、他の指は3番目の関節)の手のひら側、特に母指(親指)、中指、環指(薬指)の順に、中年、女性の方に好発します。腱鞘の入り口で肥厚した屈筋腱が指を伸ばした際腱鞘に引っかかり、更に力を加えた場合、突然腱鞘の中を肥厚した腱の部分がすり抜け、まるでばねがはじけたように勢いよく指が伸展すること(弾発現象)をこう呼んでいます。長い間そのままにしておくと次第に指が曲がったまま動かなくなり、そのまま固まってしまうこと(屈曲拘縮)もあります。

 もう1つはde Quervain(ドケルバン)病と言い、手首の親指側の真横あたりにある第1伸筋区画で短母指伸筋腱(親指を伸ばす)と長母指外転筋腱(親指を広げる)が関わることにより起こります。ばね指と同様、中年の女性に好発します。親指を手の中に入れて握り、そのまま小指側に捻ると痛みが強くなること(フィンケルシュタインテスト)で診断がつきます。

 腱鞘炎自体は悪性の疾患ではありませんが、痛みや機能障害を引き起こすため、日常生活に大きな支障が生じることがあります。治療はまず局所安静、副木、外用消炎鎮痛薬、腱鞘内への局所麻酔薬やステロイド薬の注射を必要に応じ行いますが、これらの治療が効果なく、症状が続いたり悪化したりする方に対し、手術を行います。いずれも通常局所麻酔下で行い、入院の必要はありません。しわに沿って、もしくは平行に2p程度腱鞘上の皮膚を切開したのち腱鞘を切離し、腱を開放します。その後皮膚だけを縫合します。手術時間は15分程度で、糸は術後10日頃に抜去します。キズも比較的目立ちにくい場所、実際滑車としての機能が失われることはほとんどありません。ごくまれに再発、神経損傷、化膿などの合併症が起こることもありますが、治療効果は手術の方がより確実です。

 なお鑑別診断として骨折、骨折後偽関節、関節炎、関節症、腫瘍性病変、関節リウマチなどがあり、腱鞘炎と症状が似て区別がつきにくい場合もあります。もし原因が思い当たらずご心配な場合は、整形外科を受診することをお勧めします。

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