ろうさいニュース

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(ろうさいニュース第32号掲載)

メタボリック・シンドロームについて

内科医師   河原哲也

    雪深く寒い日が続く今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?
 わが新潟労災病院も、昔は盛んだった種々のクラブ活動が中止になり、仕事から帰ると日本酒片手にコタツの中でゴロゴロTVでも見ている方が多いのではないでしょうか?(そうでない方にはスミマセン)
 私も最近、おなかの脇のゼイ肉が気になりだしました。そこで今回は、近年注目されているメタボリック・シンドローム(代謝症候群)について少し書かせていただきます。
 簡単に言いますと、「肥っている」、「高血圧」、「中性脂肪が高い」、「血糖が高い」のどれか1つに当てはまる人は、他の3つも隠れて存在している可能性が高く、3つ以上当てはまる人はメタボリック・シンドロームと診断され、動脈硬化が進み心筋梗塞や、脳梗塞になりやすいので注意が必要ですよ、ということです。
 これまでにも、メタボリック・シンドロームと同様の定義は色々なされてきました。
1988年にReavenらが、インスリン抵抗性、耐糖能異常、高インスリン血症、高トリグリセリド(TG)血症、低HDLコレステロール血症、高血圧をもった動脈硬化ハイリスク群を「シンドロームX」として定義しました。
1989年にKaplanらが、上半身肥満、耐糖能異常、高TG血症、高血圧を併せ持つ病態を「死の四重奏」と呼んでいます。
1991年にDeFronozoらが、2型糖尿病、肥満、脂質代謝異常、高血圧、動脈硬化性疾患、高インスリン血症の集積を「インスリン抵抗性症候群」と呼んでいます。
 そして2001年に米国のATP−Vからメタボリック・シンドロームの呼称が提唱されました。ここに、メタボリック・シンドロームの診断基準を表示しておきます。
(今年中に日本からも診断基準が発表予定ですが、ATP-Vとほぼ同様といわれています)

    <メタボリック・シンドロームの診断基準> 以下のうち3つ以上

内臓肥満 ウェスト周囲計
男性>102cm
女性>88cm
高トリグリセリド血症 TG>150mg/dl
低HDLコレステロール血症 男性<40mg/dl
女性<50mg/dl
血圧高値 血圧>130/85mmHg
耐糖能異常 空腹時血糖>110mg/dl
日本肥満学会基準では 男性>85cm  女性>90cm

 ちなみに、私、この診断基準に照らし合わせると血圧、高トリグリセリド血症の項でひっかかりメタボリックシンドロームの一歩手前でございます。担当の患者様に「患者に説教する前にまず自分の管理をしろ!」と言われないように、最近、なまった体に鞭打って運動をするように心がけています。
 メタボリック・シンドロームの長期暴露により、動脈硬化が惹起されるという事実は数々の研究で証明されており、上記の診断基準の3項目以上を有する人の心筋梗塞の発生率は2.01倍、脳卒中の発生率は2.16倍といわれています。
 このメタボリック・シンドロームは生活様式の欧米化によって日本人にも確実に増えてきています。その結果、動脈硬化性の虚血性心血管病や虚血性脳血管病がさらに増えることは確実です。生活習慣の修正と、適切な薬物指導が重要になってきます。しかし、やはり最も重要なのは食事、運動であります。私も患者様にはいつも「1に食事、2に運動、3,4がなくて、5に薬」が大切と言っています。
 全世界において肥満や糖尿病が徐々に増加してきているのは皆さんご存知でしょうが、1980〜1991年の期間に肥満・糖尿病の人口が急増した原因についてのイギリスの調査で、同期間の総摂取カロリーや脂肪摂取率は増加しておらず、一日のテレビを見ている時間の増加と、一世帯あたりの自動車保有台数の増加に比例するという興味深い結果が発表されています。
 適度の運動が血糖を下げるだけでなく、中性脂肪やLDL(悪玉)コレステロールを低下し、HDL(善玉)コレステロールの増加、肥満の改善に良いという事も知られています。さあ皆さんも重い腰を持ち上げて体を動かしましょう!
(ただし、あまり張り切りすぎないように。また、心疾患や運動を禁止されている方は主治医によく相談してからにして下さい。)

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