ろうさいニュース

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(ろうさいニュース第28号掲載)

肝(キモ)のお話

新潟労災病院 第5内科部長 太幡 敬洋

NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)について
[はじめに]
  上越はアルコール摂取量が多く、アルコール性肝障害や脂肪肝が多いと聞きます。今回は、アルコール“非”接取者で、肥満、糖尿病、高脂血症などを背景に発症する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のお話です。食生活が欧米化した今日では、肥満、糖尿病といった生活習慣病が増加しており、それに伴ってNASHも増加していると考えられています。‘98年頃に本症の疾患概念が確立される以前は、脂肪肝は、可逆性の病態であり予後は良いと考えられておりました。しかし、NASHでは、約10年の経過で20%の症例が肝硬変に移行し、肝不全や肝細胞癌を併発することも有るとされています。
[NASHの診断]
  NASHの診断は、下記の3項目で行なわれます。
〔1〕非飲酒者であること(エタノール換算:男性 20g/日以下、女性 10g/日以下)。
〔2〕肝組織診断がSteatohepatitis(脂肪性肝炎:肝脂肪化、小葉内炎症細胞浸潤、肝細胞の膨化、グリコーゲンの核内沈着、類洞周囲の線維化)
〔3〕他の肝障害の原因を認めないこと。
他の肝障害の原因を認めないこと。
  1日20g未満のエタノール摂取であれば脂肪肝は起こらないとされることから、1日20g未満を飲酒歴無しとする報告が多いです。また、現在のところ、血液生化学的検査や各種画像検査では、脂肪肝とNASHの区別は出来ないとされているため、NASHの診断は肝組織診断が必須です。
[NASHの臨床像]
  NASHは50‐60歳代に好発します。合併症として、肥満、“糖尿病”、高脂血症、高血圧症、高尿酸血症などのメタボリックシンドローム(代謝症候群)の病態を示すものが80%以上であり、NASHはメタボリックシンドロームの肝での表現型とする考え方も有ります。また、糖尿病を呈さない症例でもインスリン抵抗性を示す症例が多いとされます。自覚症状は、20%の症例で軽度の全身倦怠感、易疲労感、右季肋部痛などですが、多くの症例では自覚症状が認められません。血液生化学所見では、ALT(GPT)優位のトランスアミナーゼ上昇が特徴で、アルコール性肝障害はAST(GOT)優位であり、AST/ALTはアルコール性肝障害とNASHの鑑別の参考となります。しかし、線維化、脂肪沈着の重症度とトランスアミナーゼは相関しないとされます。
[肝生検の適応]
  健診では15‐30%の症例で画像診断で脂肪肝を指摘されます。NASH診断のためにこれらすべての症例に肝生検を行なうことはできません。NASHの線維化の予測因子である、高齢、糖尿病、高度の肥満、AST/ALT比が1以上、血小板低値、肝機能低下、線維化マーカーの上昇などを有する症例では、高度線維化NASHが考えられ、肝生検による診断が必要であると考えられます。
[NASHの治療]
  食事療法、運動療法で体重を1kg/1-2週以下のペースで減少することに加えて、薬物療法では、ビタミンE (PKC抑制による抗炎症作用)、アクトス (インスリン抵抗性改善)、メルビン(インスリン抵抗性改善)、ベザトールSRなどがあります。
[おわりに]
  最近の検討では、日本には、肥満と高度のインスリン抵抗性を伴うNASH症例が60万人、脂質代謝異常を背景としてインスリン抵抗性を伴わないNASH症例が20万人程度存在すると推計されています。日本の人口を1億2744万人(2002年10月1日)、上越市の人口を13万5583人(2004年10月1日)とすると、市内だけでも851人の患者様がいることになります。NASHは放置しておくと肝硬変へ移行することも予想され、高度線維化NASH症例では肝発癌も視野に入れた経過観察が必要となってきます。当院通院中の患者様はもとより、当院近隣の実地医家の先生方で、気になる患者様、該当する患者様等がございましたら、一度御相談していただけましたら幸いです。
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