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(ろうさいニュース第20号掲載)

肺癌と喫煙
新潟労災病院 呼吸器外科部長 井上 政昭

 肺癌は著しく増加している悪性腫瘍の一つです。日本では悪性腫瘍の中で1993年に男性が胃がんを抜いて第一位に、また1998年には男女合わせて年間死亡数が第一位となりました。今後さらに増加が予測されています。現在、肺癌はさまざまな治療が行われていますが完全に治癒したという状態に到る症例は多くないのが事実です。そこで、“予防は出来ないのか?”という考えが出てきます。つまり、肺癌になる確率を減らすことは出来ないかということです。
 まず誰もが考える肺癌予防は“禁煙”です。喫煙は誰もが認める肺癌危険因子なのです。一般に多くタバコを吸うと悪い、つまり“肺癌になりやすい“ということは誰でも理解できることだと思います。では、喫煙が多いというのはどのくらいなのでしょか?一般に重喫煙者とは“1日の喫煙本数×喫煙年数=喫煙指数が600以上の人”とされています。実際は一日の喫煙本数によって危険度が変わります。非喫煙者に対し一日10本吸っている人は、肺癌による死亡の危険率は約2倍に増加します。20本であると3−4倍、40本以上でありますと8倍になると考えられています。これは肺癌による死亡の危険率でありますので肺癌以外の呼吸器疾患、心臓血管系の疾患については含まれていませんので、総合的な病気になり死亡する危険率はもっと高いと考えられます。もう一つ喫煙と肺癌の関係に重要なことがあります。あまり知られていないと思いますがとても大切なことです。それは喫煙開始年齢です。同じ喫煙指数であると、若くタバコを吸い始めると肺癌になる危険が高いということです。一般に良く耳にするのは喫煙指数に関しての肺癌危険率であります。もちろん喫煙指数が肺癌と最も関係のある因子であることには間違いありませんが、肺癌に罹患する確率を下げるという意味では、喫煙開始年齢というのはとても重要な因子なのです。ではどのくらい喫煙開始年齢が関係しているのかというと、あるデータでは10代で喫煙を始めた人は、25歳以上で喫煙を始めた人より約5倍も危険であると示しています。20代前半までに喫煙を始めた人は20代後半から喫煙を始めた人より肺癌になる確率が高いということなのです。肺癌発生は60歳代から増加します。若い人は30年〜40年後の肺癌予防に、また30歳代以降の人は肺癌を含め多くの成人病予防のために一日でも早い禁煙を勧めます。禁煙は自分のためだけでなく、自分の家族のためでもあります。
 では、禁煙で本当に肺癌発生は抑えることが出来るのかという疑問があります。米国では早くより禁煙運動を積極的に推進し喫煙率が減少している国です。その喫煙率減少に比例し米国では肺癌が低下しています。この事実を考えると禁煙により肺癌発生は抑えられると考えられます。余談ですが、アメリカのある都市では路上での喫煙は禁止で、場合によっては逮捕という可能性もあります。
 肺癌発生にはさまざまな因子が関係しています。つまり、喫煙が一番重要な因子でありますが、その他多くの因子が関与しています。そのいくつかを紹介しますと、デイーゼル排ガスで代表される自動車排気ガス、大気汚染、食生活、遺伝因子などです。多くの因子が肺癌発生に関与していますが、確実にまた簡単に肺癌発生率を抑制出来るのは“禁煙”であります。この労災ニュースを読んで一人でも多くの方が禁煙を始め肺癌を予防できることを願っています。

 

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