ろうさいニュース

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(ろうさいニュース第6号掲載)

MRI(核磁気共鳴画像)について
新潟労災病院放射線科部長 樋口正一

 MRIは1980年代初期に、国内で臨床応用が始まり約20年が経過しています。現在そ
の多くの特徴や利点から広く用いられ、日本全国で約4,000台、新潟県内で約80台稼
働しています。MRIは磁石と電波の力で画像を撮る装置で、磁石の強度を作るコイル
の種類は永久磁石、常伝導、超伝導の3つに分けられ、当院では静磁場強度が最も高い
超伝導の1.5Tの装置を使用しています。このT(テスラ)とは、磁石の強度の単位で
1T=10,000ガウスとなり、普段われわれが生活している地球上の地磁気が0.5ガウスく
らいですから、その約20,000倍の強度の磁石を使っていることになります。MRI装置
は、この静磁場が大きくなればなるほど人体からの信号を強く採取する事が可能で、1.5T
の装置は非常に鮮明な画像を撮像することができます。

 MRIの原理については、ろうさいニュースの第2号に書かれているので、ここでは
省略しますが、X線CTと違い、人体を構成する細胞に含まれる水素原子を画像化しま
すので、非常に濃度分解能が高く、解剖の教科書をみているような画像を得ることがで
きます。MRIは他の画像診断にない大きな特徴が二つあります。一つはこの濃度分解
能がよい、つまり脳などの軟部組織のコントラストが抜群によいことと、もう一つは、X
線を使わないので放射線被曝がないということです。検査の適応部位は、肺実質臓器を
除くほぼ全身を撮ることができますが、特に脳と脊髄での有用性が高く全体の7割を占
めています。

 中枢神経(脳)領域は、当院で最も利用頻度が高い領域であり、脳神経外科では最初の
画像診断にMRIを選択されることが多く、複雑な撮像条件を組み合わせた、いろいろ
なコントラストの画像を撮ることで、脳実質の形態を詳細に把握することができます。
また、MRAは頭蓋内の血管を造影剤を用いずに描出することができます。これによっ
て、未破裂の脳動脈瘤を発見することが可能であり、当院の脳神経外科での調査で、全
MRA検査中の3.5%に脳動脈瘤が発見されています。これにより、多くの方々が手術(ク
リップ術)を受けられ未然にクモ膜下出血が予防できています。また、他の診断機器で
は、検出できない超急性期(発症直後から6時間以内)の脳梗塞を検出可能なDWI(拡散
強調像)が6年前から撮像可能です。心原性脳塞栓は、一旦発症すると極めて重症な脳
梗塞を起こす疾患(故小渕総理のご病気です)ですが、発症後なるべく早期(6時間以内
位)に塞栓物を取り除き脳に血流を戻してあげることで半身麻痺から逃れることができ
ます。よって、DWIにより早期に、脳梗塞の診断をつけることが非常に大事で、適応
があれば血栓溶解術を行い、発症して搬送されてから血栓溶解術を終了するまで総てを
一刻も早く終了できるように、脳神経外科と放射線科が連携を取り合いながら行ってい
ます。これらも総てMRIの進歩による成果です。したがって、放射線科では、頭部のMRI
がいつでも撮れるような体制が確立されています。

 整形外科領域では、最も検査数が多いのが頚髄と腰髄の検査です。MRIによって、
脊髄を直接画像化することが可能であり、ヘルニアや脊柱管狭窄症から腫瘍までの多数
の病変を低侵襲で行うことができるので診断に役立っています。また、軟部腫瘍では、
腫瘍の存在のみならず、腫瘍の質が分かる場合もあります。関節系でも、膝関節や股関
節、肩関節などを主に検査していますが、靱帯や軟部組織などを描出し、半月板や靱帯
損傷の診断が可能であり整形外科での手術の適応などを含めた治療方針の決定のために正確な情報を提供しています。

 放射線被曝がないことによる利点から、定期的に検査を必要とする肝臓や婦人科領域
の検査も積極的に行っています。造影剤を用いたダイナミック検査は、肝臓癌の検出な
どの精度を非常に高くしていますし、同じように胸腹部の血管も描出可能であり解離性
の動脈瘤や、血管の閉塞などの評価に用いています。また、膵胆管系を造影剤を用いな
いで画像化するMRCPなども撮像でき、MRIの得意な分野です。

 以上、各分野でのMRIの利用価値を書いてきましたが、当院のMRI装置の性能は非
常に高く、その性能を充分使いこなすよう日々努力をいたしております。各開業医の先
生方と放射線科で地域医療連携室を通してご利用も頂けるような体制も整っていますので、
お気軽にご利用ください。

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