ろうさいニュース

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(ろうさいニュース第5号掲載)

消化性潰瘍とピロリ菌
消化器内科 川端英博

 胃の中はpH1から2の強酸性環境であり、口から入った細菌は胃内では生存できないと信じられていました。ところが最近、この胃内にある種の細菌が生存し、潰瘍の再発や治りにくさに関係があることが明らかになりました。この胃酸の中で生存していたのがピロリ菌です。ピロリ菌は大きさ0.5から1.0×2.5から5.0マイクロメートルのらせん状の細菌で、一端に数本の鞭毛(べんもう)があり、胃粘液中を活発に泳いでいます。また、ピロリ菌は胃粘液中の尿素を分解してアンモニアを産生し胃酸を中和します。そのため体のまわりをpH6から8にして生存できるのです。
 このピロリ菌の感染率は衛生状態をよく反映し、アメリカ、フランスなどの先進国では10歳で10から20%、40歳で30から40%ぐらいですが、ベトナム、タイなどの発展途上国では10歳で50から70%、30歳で80%にもなります。わが国の感染率は、10歳では20%と低率ですが、40歳で80%と発展途上国なみに高率です。感染経路は、歯垢(しこう)や唾液(だえき)からピロリ菌が検出されるので、人の口から口への感染が考えられます。また、ピロリ菌感染者の糞便からピロリ菌が分離培養できることから、感染者の糞便が飲み水や食品に入り、口から感染することも考えられます。
 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さんは、ピロリ菌に感染していることが多く、潰瘍の再発や治りにくさに、ピロリ菌が関係していることがわかっています。また、ピロリ菌の除菌に成功すると胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発が抑制されます。
 では実際にどのような手順で除菌療法をするのかですが、まず胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さんがピロリ菌に感染しているかどうかを調べます。ピロリ菌の診断法は、内視鏡検査を必要とする1.迅速ウレアーゼ試験2.検鏡法3.培養法と、内視鏡検査を必要としない1.抗体測定法2.尿素呼気試験で、それぞれの検査法には長所と短所があり、それを考えたうえで選択します。ピロリ菌がいない場合は通常の潰瘍治療をします。ピロリ菌がいる場合は潰瘍の再発を繰り返している患者さんと、治癒しにくい患者さんには除菌療法を行います。胃酸を抑える薬と2種類の抗生剤を7日間、朝晩内服していただき、その後3から7週間通常の潰瘍治療を行い、終了後4週間以上あけて除菌できたかどうかピロリ菌を調べます。
 7日間の除菌療法の副作用としては、下痢をしたり、食べ物の味がおかしいと感じたりすることがあります。また除菌成功後に5から10%にかるい逆流性食道炎やまれに急性胃・十二指腸びらんが生じる可能性があります。しかし、除菌療法に成功すると胃のポリープや胃腺腫の縮小や消失も認められます。一昨年11月に厚生省で認可され、当院では個人に合った最適な除菌療法を行っております。

 

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